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生産者と表現者


KURUME MASTERS TALK第2回は、久留米産バニラ対談です。国内で初めてバニラビーンズの生産を久留米で行った有限会社金子植物苑 代表金子茂氏と、創業1949年久留米の老舗甘味店『茶房古蓮』の匠バニラアイス開発担当者 古賀裕実氏。久留米産バニラビーンズを使った匠バニラアイスの誕生秘話や、バニラの奥深さ、両社の更なる展望などを聞かせていただきました。

 

久留米でバニラビーンズが生産されている

 

古賀(以下、古):金子植物苑さんとは店舗に置く植木のリースをお願いしていたので、取引は昔からあったみたいです。

金子(以下、金):そうですね。

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古:当社のアイスクリームが創業から手作り、無添加にこだわっていた事もありましたので、バニラアイスの原材料を国産でやってみたいという気持ちはありました。ただバニラビーンズがマダガスカル産のイメージが強かったので、国産があるなんて考えもしませんでした。

そんな時、商工会議所の方から、久留米でバニラビーンズを生産されているという情報をいただいたんです。それでしたら地場産の方が良いですし、以前から金子植物苑さんも知っていたので、そこからはスムーズに話しが進みましたね。

金:当社も久留米の方にバニラビーンズを使っていただきたいという考えがあったので、有り難いお話しでした。

 

匠バニラアイスができるまで

 

古:そこから匠のバニラアイスが完成するまで、1年半くらいでしょうか打ち合わせを重ね・・・。

金:試作の繰り返しでしたね。

古:いかに久留米産バニラの香りを無添加アイスで表現できるか、金子社長と悩みました。私自身、久留米産バニラの香りも普通に出せると思っていたので、中々出すことが出来ず苦戦しました。自分の知っているバニラの香りとは違いましたし。

金:バニラの香りのイメージが、一般的には外国産のバニラの香りで刷り込まれているからですね。

古:キュアリングを行うことで徐々に香りが出てきますし、温度によってバニラの香りが立つことがわかりました。でも、上手く出たり出なかったりで。

 

ワイン作りと似ている

 

金:そう。ワイン作りと似ていて、バニラビーンズも葡萄と同じように一房一房違いますし、収穫年によって取れ高も、出来上がりも違いますから、どうしてもばらつきが発生してします。

更に国産バニラビーンズは生産量が少ないので、それだけ安定性が保たれていない事も、香りにばらつきが出る原因の一つです。

古:匠バニラを販売する立場として、なるべく風味に安定を保たせる事が私の仕事でした。温度やバニラビーンズの数を変えたりと、その調整と感覚をつかむ事が難しかったですね。

金:それが古賀さんの技術です!

 

苦悩

 

古:技術だなんて(笑)。ただ匠バニラが完成するまでは、思うような香りが出せなくなって煮詰まってしまい泣いた事もありました。香りがわからなくなって・・・

金:バニラの香りだけではないですが、香りを扱う仕事の方は、何度も同じ香りを嗅いでいるので、嗅覚が麻痺する事もあるんです。

古:それでした。手に付いたバニラの香りと、アイスを食べた時の香りが同じなので、香りが出たかどうか分からなくなった事もありました。

金:アイスクリームは温度が低いので、他のスイーツに比べると久留米産バニラビーンズの香りを出すのにコツがいるかもしれませんね。

 

匠バニラアイス完成

 

古:匠のバニラにたどり着いたきっかけは、ある時金子社長がアイスクリームをスプーンでかき混ぜながら食べられていて、この状態が一番バニラの香りが出ますよねと、おっしゃったのがきっかけです。

それまでは固いまま食べると思っていたのが、金子社長の助言で、溶かしながら食べると国産バニラの風味が楽しめ、香りが鼻に残るという事がわかったんです。お客様には食べ方まで提供しようと思いました。

金:農業まつりや福岡市での展示会、最終的には東京のFOODEXJAPANなど、いろいろな所で来場者にも匠のバニラアイスを試食してもらい、高い評価をいただいたことで、匠バニラアイス完成に至りましたね。

古:そうですね。創業して70年近く無添加にこだわりやってきましたので、バニラビーンズ、てんさい糖などを使った、完全な国産のバニラアイスが完成した事は、当社にとってとても強みになりました。更に消費者が、数年前からより食の安心安全に関心を持ったことで、国産、特に九州産が注目を集めたのもあり、全国から問い合わせをいただくようになりました。

 

外国産との違い

 

金:マダガスカル産のバニラビーンズは、マダガスカルの風土に合ったキュアリングと言われる発酵と加工で、独自の香りが立つように作られています。タヒチ産、インドネシア産も同じく産地のキュアリングによって香りの立ち方が違います。どちらかというとマダガスカル産をはじめとする外国産はガツンとくる香りで、国産バニラの場合は後から柔らかな香りがやってくる感じです。

古:やっぱりバニラビーンズはマダガスカル産のシェアが大きいですか?

金:そうですね。あと一般的に売られているバニラアイスクリームのバニラ風味は合成のものが多いです。外国産でもバニラビーンズが使われているのは、プレミアムタイプのバニラアイスクリームくらいでしょうか。

古:そうなんですね

金:ただし香りのばらつきを防ぎ、供給を確保するなど安定性を保つためには、合成の物を使うことも一つの必要な手段だと思います。

 

バニラはラン科植物

 

金:もともと当社はランを栽培していまして、バニラはラン科の植物なんです。2005年に国際ラン博覧会でバニラを展示してから、2009年までは観賞用としてバニラを栽培していました。

以前久留米では洋ランの栽培が盛んで、昔は久留米つつじを輸出した代わりに、洋ランなどいろいろな植物が入って来たそうです。

古:そんな歴史があったんですね!知らなかったです。

金:当社もバニラを栽培していたこともあって、バニラビーンズの生産化を目指し、加工技術を得てバニラをキュアリングしてみました。その結果、外国産とは違う香りが出せたことで、差別化できると思ったことが、バニラビーンズを生産しようとしたきっかけです。

 

香りの秘密

 

金:そもそもバニラビーンズ自体が甘いと思われていますが、それはひとつの要素で本来約200種類の香りがあるそうです。そして、乾燥させていくことで、いろいろな香りが飛んでいきます。マダガスカル産の場合は、バニラビーンズが甘い香りに仕上がっていて割と乾燥しています。一方で久留米産は乾燥しきらないウエットな状態です。

古:久留米産のバニラビーンズは、匠バニラを溶かしながら食べる事によって、体温によりバニラの香りが初めて生まれてくるタイプなんですよね、口の中で香りが開花してバニラの余韻が持続し楽しめます。

金:完成した匠バニラを試食した時、古蓮さんはこういう風に表現してくれたんだと、とても嬉しかったです。

あくまでも当社はバニラビーンズの生産者ですし、香りを卸先に押し付けるものでもないので、商品の試作を戴く度、バニラの香りの表現が勉強にもなりますし、こちらも商品化してもらい易くするための研究材料にしています。

 

栽培状況について

 

金:バニラの栽培は施設が必要です。ラン科植物なの胡蝶蘭が栽培を育てられる場所であれば実質可能です。現在は農商工連携して沖縄、熊本、大木町と一緒に作っています。久留米でもプロジェクトがあります。

古:生産は増えているんですか?

金:年々増えていますよ。ただ急には増えないので増産が難しいです。それでもバニラは開花から収穫まで早くて4か月、そのあと2~5か月程、用途によってキュアリングを行います。

古:結構時間かかるんですね

金:熟成させないといけないんです。

古:せっかくバニラビーンズ生産は久留米が国内初なんですから、当社も上手く広めたいですね。

実は古蓮の無添加・手作りアイスクリームの認知はされていますが、匠バニラに関しては地元でも知らない人が多いです。バニラが久留米で栽培されている事を知らない人もいらっしゃいますよね?

金:はい。まだ、知らない人の方が多いです。

古:いま金子社長のご関係以外で生産している地域もあるんですか?

金:宮崎県が進められているみたいです。

古:もっと生産地が増えて、市場が盛り上がるといいですね。

 

全国へ

 

古:これからの当社の展開としては、久留米産の匠バニラがあるので、全国展開を進めたいです。ただし原材料にこだわり持たれているなど、当社と同じような考えを持たれている所とお取引したいです。すでにお問い合わせもいただいていますが、卸からOEM、PBまでが良い形でお取引できたら嬉しいですね。

金:久留米産バニラで他のスウィーツは?

古:バニラビーンズの違いを上手く出せるスウィーツがいいですね。実はまだ開発段階ですが、先日の試作では手ごたえありましたよ!

金:お誘いがなかったのですが・・

古:またやりますから(笑)その時はお誘いします。

 

バニラの香り・風味

 

金:これからの目標はまず安定供給です。まだまだ生産量が少ないので。あとキュアリングによって色んな香りがあるので、それを卸先のお客様が使いやすい形で提供していきたいですね。バニラは味と勘違いされていますが、香りなんです。ミルクなどの原材料と相まっての味なので、味と香りの認識のズレがあります。

本当はミルク味のバニラ風味なんです。古蓮さんが使われている牛乳の味と、バニラビーンズの香りが相まって匠バニラにつながっています。本来バニラは引き立てるものであって、主体ではないです。

古:誤解されている人の方が多いかもですね。スウィーツ以外ですと、どんな用途に使われていますか?

金:料理用などの食用が多いですね。シャンプーなどの問い合わせもきています。ただ生産量が追い付いていないので・・・。

古:でもシャンプーとかボディーソープ良いですね。久留米産は香りが持続するから絶対にヒットしますよ!市販されているボディソープの合成のバニラの香りでも、いい気分になるくらいですから(笑)

金:生産量次第です(笑)。でも香水も結構多いんです。某フランスの有名ブランド香水もバニラをベースにしている商品もあります。国産はまだ食用に回す方で手一杯です。

 

久留米とは・・・

 

古:久留米は医療の街であり、都会でもなく田舎でもなく住み易い街です。高齢になって何かあっても、病院が沢山あって安心。筑後川はありますし、耳納連山など自然もあるいいところです。先代の会長が、安心できる甘いもので皆さんをホットさせたいという思いもあり、おかげ様でご年配のお客様方の多くが、学生時代から食べて下さっています。そんな久留米だからこそ、当社も安心安全をこれからもこの街で続けて行きたいですね。

金:久留米は生まれ育った街。全国的にみても園芸文化は凄いです。有名な久留米つつじ、久留米つばきがあり、色んな草花もあります。そういう中で当社もバニラに携わっていますし、一つの園芸文化にもして行きたいです。あとは色んな方にバニラビーンズを使ってもらい、久留米をバニラのまちにしたいなという気持ちがあります。

 

PROFILE

 

金子 茂 かねこ しげる

金子植物苑 代表取締役

久留米市出身。九州東海大学大学院 農学研究科博士前期課程修了。観葉植物のレンタル、リース業、花き背産業などを手がけ、2009年に国内でバニラのキュアリング技術の開発に成功。本格的に国産バニラビーンズの生産販売事業を開始する。 地元・久留米を愛し、「地域に貢献を」という思いから、久留米筑後地域の農家と協力して、バニラの産地化をめざしている。

福岡県久留米市藤山町1731-1 tel. 0942-22-8483

 

古賀 裕実 こが ひろみ

古蓮 ゼネラルマネージャー

八女市星野村出身、専門学校卒業後古蓮に入社。初めて食べた古蓮のかき氷『古蓮の氷』の不思議さと魅力に衝撃を受ける。創業1949年以来、厳選された素材を使用し、無添加を守り続けている企業理念もと、原材料をすべて国産にこだわった匠バニラアイスの開発を担当する。

【 茶房古蓮

(本部)福岡県久留米市西町1173-1 tel.0942-32-4278

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