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飽くなき探求心


KURUME MASTERS TALK 記念すべき第1回は久留米に店舗を構える新鋭レストランの店主対談。今や久留米市外からのファンが多い、田主丸の人気フレンチ『Restaurant Spoon』井上勝紀氏と、久留米では唯一無二の、はかた地どり専門の本格焼鳥店『日吉町 酉雅』津江雅人氏。実はお2人、学生時代からの先輩後輩の仲だとか。久留米を選んだ理由から苦労話まで、お互い普段語らない良い話を聞かせていただきました。

 

勝紀くんの印象はマジメ!だけど怖い(笑)

 

井上(以下、井):津江くんとの出会いのきっかけは、学校は違ったけど遊び仲間でいた。僕は旧車バイク好きなどのグループに入っていて、1つ下の津江くんはスケボーでグループ間が仲が良かった。印象は礼儀正しく愛嬌があったので、周囲からは可愛いがられていた記憶があります。

津江(以下、津):勝紀くんの印象はマジメ!しかも怖い(笑)でも優しい先輩でしたね。勝紀くんの諏訪中同級生のキャラが濃く、とにかく怖かった。あと空手が強かったですし・・

井:空手は2段まで取得しました。振り返ると僕の人生は、空手と料理しかやってなかったですね(笑)空手は幼少から始めましたが、父が厳しかったので空手を辞めるという選択肢がなかったです。辞めたかったのですが仕方なくやっていくと、上達し段々楽しくなりやりがいが出てきました。九州大会で優勝出来たのが印象的でした。

料理業界にも通じることですけど、厳しい下積みを乗り越えないと料理の楽しさも見えてきませんよね。

 

父が料理人

 

津:勝紀くんが料理人になったきっかけは?

井:父が料理人だった。

津:そうなの!?

井:そう。自分が物心ついた頃には辞めていましたけど、自宅にはたくさんの料理本があったんです。三人兄弟の次男の僕だけが小さい頃から料理本をよく開いて、何か作っていたみたいです。

幼稚園の卒園アルバムの将来の夢には“コックになること”と書いていました。

津:ほー

井:高校出て18歳で料理の世界に入りましたが、父からは「おまえに務まる世界ではない」と反対されましたが、それでも夢だったので。

 

美容師やっていて・・・

 

井:津江くんは?

津:勝紀くんの後だと言いづらいけど。21歳まで福岡の天神で美容師をやっていて・・・

井:確かそうだったよね!

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津:美容師も辞めて当時付き合っていた彼女の家に居候状態で、その彼女から「働かんならここに行かんね!!」と、パスタ専門店のスタッフ募集のチラシを投げつけられ促されまして。

ただ、料理も包丁も握ったことなかったし、どうせ落ちるだろうと渋々面接に行ったら店長から「何もできないならウチに来い!」と。正直「あっちゃーマズイな」と思いました。

井:(笑)

津:でも昔から何か作ることが好きだったので、どんどん料理に目覚めていきました。働いて料理を勉強していくと見えてきた事もありましたし、このイタリアンは本物ではないと思い最初の店は辞め、イタリア料理店を転々としました。

 

ホテルとレストランのシェフを経験

 

津:勝紀くんはホテルのシェフのイメージが強かったよね。

井:高校新卒で萃香園ホテルに18歳~25歳まで7年間お世話になったからね。24歳の時にはホテル内のフレンチレストランをトップで一任して戴いて切磋琢磨していました。その後宴会課も経験させて戴き全ての部署を一巡し、そろそろ町場のレストランでの修行もしたくて大阪に出ました。次に働いたのが、バルニバービが展開する南船場の大人気店「カフェガーブ」。その店は4フロアあり席数が300席近くで

津:デカいですね。

井:そう。キッチンも広くオープンキッチンでパスタ、ピザ、ホットミール、コールドセクションがそれぞれあり、僕はパスタセクションを1人で任されていました。

週末はオープン前から行列ができていて、常に満席状態でしたね。

津:恐ろしい・・・

井:ランチパスタもA~Dの4種類あり夏場はDが冷製パスタで、オーダーの際デシャップの女の子が「オーダーはいります!オープンです。」「パスタAセブン、パスタBイレブン」

津:(笑)

井:「パスタCナイン、パスタDファイブでお願いします!お後Aスリー・・・」

津:(笑)

井:そこでとにかく鍛えられましたね。そのあと天王寺のフレンチ、大阪のハイアットリージェンシーと。ホテルのシェフとレストランのシェフどちらも経験しました。

 

久留米に自分が理想とする店がなかった

 

井:当時久留米には大御所のフレンチのお店や、老舗イタリアンやそこから独立されたイタリアンが多かったです。

津:そうでしたね。

井:僕は料理以外にもインテリアや音楽、アート、写真も好きだったこともあり、全ての空間が理想の店を自分自身で作ろうと思っていました。18歳で料理人になった時には、久留米にSpoonという屋号で店を構えると決めていました。赤ん坊からご年配の皆様まで使えるアイテムはスプーンです。フランスでは出産祝いに銀のスプーンを贈る風習もあります。

他店様のフランス料理店は、基本的に中学生以上の年齢制限がありますが、当店はお子様もOKです。ベビーカーも一緒に来店できて、子育て中のママ達の癒しの場になれば・・・という考えもあります。

 

コックコートからスーツへ

 

井:ホントは20代で店を出したかった。20代の感性と若さの勢いで店舗を構えたい理想はありました。

津:そうなんですね

井:でもまあお金が貯まらない。料理人の給料はコツコツ貯金しても貯まるレベルではなかった。両親の力も借りたくはなかったですし。開店資金融資受けるための銀行との交渉能力も、事業計画書を作り方も分からなかった。

大阪から地元久留米に帰ってきて、経営力やマーケティング力を学びたいと、全国展開するオイスタバーの会社に入社しました。そこでは最初から料理の勉強ではなく経営を勉強したくて入社しましました。

津:経営を!?

井:副料理長から入り料理長などを務めたあと、エリアマネージャーを務めました。後半はコックコートではなく、スーツを着てパソコンを持って各店舗を回り、店長と料理長に売り上げの推移を見ながらアドバイスをする仕事をしていました。

その会社では社長と本部長から経営数字のことを叩き込まれ、とても勉強になりました!自分に足りないスキルでしたから有り難かったです。経営本も沢山読んで、感想をレポート提出もしていましたね。

津:うあー、読むだけじゃだめなんですね。

井:しっかりとマーケティングも学べたので、田主丸町から更に山手のような郊外でも勝負できるんだという自信がつきました。事業計画書もエクセルやパワーポイントを使って作成できるようにもなって、とにかく経営のノウハウを学べたことが大きかったですね。

 

融資結果はゼロ

 

井:満を持して事業計画書も作成し、国金(日本政策金融公庫)に内装費と備品購入費の融資を受ける自信はあったんだけど、申請後の回答はゼロ。

津:えーー。​​

井:国金がダメなら銀行は更にハードルが高いというイメージがあったし、土地と建物ローンがスタート、開店準備で半年働いていない、子供が保育園に通いだすで大変でしたね。

 

美味しいお店には誰でも何処へでも

 

井:最後に保証協会様を間に立てて、銀行からの融資を受ける申請をしました。ただ保証協会を説得するということは、銀行より大変という認識もありました。銀行の代理ということでもあるので。

事業計画書を提出しプレゼンすると保証協会の担当の方から『井上さん、いいと思います。これからは美味しいお店には誰でも何処へでも行きます。』『井上さんのこれまでの経歴と、これだけしっかりした事業計画書を作ってくる料理人はいませんよ。行けると思います。いや行きましょう!』と晴れて銀行様より全額融資を受けることができ、やっと動き始めることができました。

津:担当の方、恩人ですね!いいこと言うし。

 

いつも妻に助けられていた

 

井:田主丸に決めたのは、久留米に出したいと思ってはいたけど中々良い物件がなく、八女市やうきは市も視野にいれて郊外で探していた帰り道です。

その時間帯がちょうど夕方だったんですけど、眼下を望むと田主丸の街並みと筑後平野が真っ赤に染まりとても綺麗で、山手を見上げると美しい耳納連山。妻と目を合わせて『ここ・・・いいね!』。

地元でもなく郊外で周囲には何もない立地なので、両親や先輩達からは大反対されました。田主丸近隣の方からも『昼間から500円以上出さんもんね』と厳しい評価をもらっていました。

しかしこれまで自分の修行時代もついて来てくれた妻が『大丈夫。あなたの料理なら誰でも何処まででも食べに来てくれるから自信持って!ここに出そう!』と言ってくれたことに決心がつきました。

津:いい話ですね!!

井:妻の言葉がなかったら今のSpoonはなかったでしょうね。国金からのゼロ回答の時も妻は『いや、大丈夫。次は絶対いけるから』とすごく支えてもらいました。女性は強いです。頭上りません!

津:ですよね(笑)

 

半年間お客が来ない

 

津:オープンしてからお客さんはどうでした?

井:半年は全く

津:えー

井:郊外だし、昔から繋がりのあったところ以外は出版社関係様もお断りしていたので、田主丸にフランス料理があるということも知られていなかった。

津:どうやってお客さんを掴んだんですか?

井:まさに口コミで。お店の案内はFacebookのみだったので、Facebookを通じて徐々にお客様が増えていきました。あえてサイレントオープンにしたのは、宣伝して一気にお客様が増えてもオペレーションが上手くいかないと待たせてしまい、不満の原因になるので。その半年分の試算も勿論運転資金として頭にいれていましたよ。

津:スゴイ

井:それにしても来なかった(笑)

津:そういうときは割り切っていました?

井:いや、怖かったよ。値段下げないといけないのか!?暇だけど店舗が新しいので掃除をする場所がない。仕込めば仕込むほどロスになるし。

津:(笑)

 

ゆくゆくはオーベルジュに

 

井:お一人、一組を大事に、来て下さる常連のお客様により満足してもらえたらと。経営はやはりコツコツが大事ですね。オープンして4年目ですが全く日々気が抜けません。

津:そうですよね。これからのSpoonの方向性は?

井:2店舗目の出店のお話しもいただいたりしますが、店舗展開は全く考えてないです。店舗展開は信頼できるスタッフが沢山必要ですし、Spoonの場合は僕が居て成り立つと思っています。料理を味わって、景色も店の雰囲気もトータルで感じて戴いてこそSpoonの醍醐味ですので。

更なる夢は創業前より事業計画には立てていますが、ここの店の敷地内に菓子製造場を作り、更に増設して宿泊施設を建ててオーベルジュにしたいんです。

津:へー良いですね!

井:お部屋を3部屋くらい用意出来たら、ディナーとワインを楽しんだ後ゆっくりお部屋でお休み戴いて、朝はお店のカウンターで極上の景色を観ながらゆっくりと朝食をとって戴きたいと計画しています。

津:ここに座るだけで勝紀くんのイメージ共有できますね

井:そうなんです。あえて敷地も作り込み過ぎないように作って、木もあまり植えていませんし下水管もちゃんと下に通しています。

津:さすが!

 

地域を盛り上げるのに一役買いたい

 

井:最近は念願のお菓子事業も立ち上げました。おかげ様でゆっくりですが、全国から発注もいただきファンも増えています。長期計画と中期計画を見据えて、しっかり資金を貯めていかないと次に進めませんから、クラウドファンディングとかも検討しつつ。

津:全国からですか。勝紀くんの理想の店まで今は何合目くらい?

井:んーまだ三合目。

津:3合目!!

井:やればやるほど未熟さを痛感するし、やりたいことがいっぱいあるからね。あと地域を盛り上げるのに一役買いたいなというのもあります。

田主丸町に県外や福岡市内からたくさん人を呼んで、微力ながら上手くエリアに回せる力になれたらいいですね。地域、田主丸町、久留米市、福岡県、九州が発展して、皆が潤うような環境を。しっかりとした理念を持ち施策なども常に打って出ないと、この時代お店は続けることはできないと思います。

津:筑後市もホークスのファームがやってきますし

井:お隣のうきは市もうまく連携とれていますし、すごく勢いも感じます。

久留米は久留米のやり方でもっともっと盛り上げていきたいよね

津:そうですね。

 

自分が行きたい焼鳥屋を作りたい

 

井:津江くんはどうして久留米で焼鳥屋に?

津:生まれ育った街だったからですね。はかた地どり専門店の料理長だったことがきっかけです。鶏と豚は味が淡白な分、味がはっきりわかるんです。

井:あと火加減だよね

津:本当は僕、炭火でイタリア料理をやってみたかったんです。チャコールグリルで鶏も野菜も焼いて、そこに美味しい塩とオリーブオイルをかけて食べるスタイルで店を持ちたいと思っていました。

その炭を使いこなすためには一番手っ取り早かったのが、焼鳥屋で炭の使い方を学ぶことでした。いざ焼鳥屋に務めると焼鳥の奥の深さという​​か・・・

井:そうだね

津:結局焼鳥は肉焼きの技術で、そこが面白くてハマってしまいました。ただ久留米の焼鳥は、串に刺さっていれば何でもOKのバーベキュースタイルの焼鳥屋で。それが自分の中で葛藤があり、自分が行きたい直球の焼鳥屋を作りたいと。

 

新鮮な地鶏を手に入れられる条件があった

 

井:どうしてはかた地どりを選んだの?

津:他にも久留米さざなみどりも試してみましたが、はかた地どりは県内で生産された鶏が、一括して久留米市北野町で屠殺されているんです。朝引きではなく昼引いた鶏を取りに行けます。特にレバーを新鮮な状態で提供できるのが一番大きかったですね。

井:レバーはデカいよね。

津:ほかの肉の部位もレアで提供できたりするのですが、まだまだお客様には本格焼鳥が浸透していなく『生焼けやん』と言われたりします。もちろんレアが全てではないですが、最高の状態の火入れは知っているつもりなので、そこは頑固にお客様からのリクエストもスルーしたりしています(笑)

井:(笑)

津:久留米には新鮮な地鶏を手に入れられる条件があったんです。同じ鶏でも輸送時間によって鮮度が落ちますし、特に内臓部分は鮮度勝負だったからです。

井:お店は順調?

津:毎日苦労しています(笑)。会社員ではないですし、全てがやったことだけ反映しますし、やることやらないと経営は大変ですね。まだ8ヵ月なのでいま一番模索している状態です。ただこのスタイルで常連のお客様も徐々に増えて、勝紀くんも言っていたけど、常連のお客さんと一緒にお店も育っていけたらと思っています。

オープン当時のメニューと今とは変わっていっているので、もっと良いものを提供していき成長できたらいいですね。

井:そう。これからの時代良いもの提供して、それだけの対価を払ってくれるお客様を掴む方が良いよね。自分も納得できるし、お客様も求めている。ウチも安くない。昼でドリンク頼むと3千円越えてくるし、ケーキも買うと5千円になったりするけど『どーもー!』と颯爽と帰られている。

安かろう高かかろうではなく、良いものを安心して食べてくれるお客様が大事ですね。

 

競合店がいないことが一番

 

井:これからの酉雅は?

津:自分の店がスタンダードになって欲しいです。鶏が美味しくない焼鳥屋は論外ですし、久留米の焼鳥をボトムアップしていけたらいいですね。

井:津江くんの店はしっかり差別化ができていて素晴らしいよね。やはり経営で繁盛したかったら、ライバルがいない場所選びと個性です。ウチも田主丸町にフレンチはないので競合店がいない。もう少し久留米市中央エリアまで範囲を広げると、老舗フレンチやイタリアンしかなく、カジュアルで食材にこだわった位置づけのフレンチがあまりないので、そういったところでもSpoonの今に繋がっていますね。

津江くんの店もその状態のまま洗練していければ大丈夫だよ!あと謙虚に(笑)

津:この風貌だからですね(笑)

 

予約の概念がない方もいます

 

津:最近は徐々に改善されては来ましたが、ウチの店が夫婦2人でやっている分、お客様が重なると料理の提供が遅くなるので、席が空いていてもお断りしてしまうことがあります。だから電話一本入れてもらえると助かりますね。

井:居酒屋と焼鳥屋に予約なんていらんでしょ!?みたいな風習がありますよね。

津:そうなんです。普通に(笑)

井:ウチも勿論フリー来店多いですよ!

津:ホントですか?!

井:ランチに飛び込みでいらして、お席がなくお断りすると『これで三回目やん!』と予約の概念がない方もいます。お断りせざる得ないので申し訳ないんですけどね。

津:三回も(笑) 

 

僕らにとって久留米とは・・・

 

井:自分が目標とした場所であり、もっと可能性がある場所だと思います。

特にアジア圏の観光客が福岡を窓口として来ているので、そこから久留米の方にも引っ張られるようになればステップアップできると思います。

津:今の久留米からは想像できないくらい、昔の久留米は力も勢いもあって、自分が青春時代色んな部分で影響を受けた街なんです。良い部分もたくさん見た世代だったからこそ、久留米でお店を出したかったと思います。

井:ふらっと一番街に行けば、とりあえず誰か知り合いがいたから行こうという感じでしたし、これからの久留米復活に期待したいですね。

津:そうですね。盛り上げていけたらと思います。

 

PROFILE

 

井上勝紀 いのうえ かつき

Restaurant Spoon オーナーシェフ

幼少の頃より料理人を志し、福岡県内や大阪の老舗ホテルや外資ホテル、フレンチ、

イタリアンレストランで修業する。欧州の各地を旅した際自然を愛し、食材に敬意を表するという『自然回帰』に気づく。店舗を構える久留米市田主丸町は野菜やフルーツ、自然に満ち溢れ、井上氏が求めているモノが全て揃う理想の場所であり「朝採れた食材をその日に使い切る」お客様には常にフレッシュなお料理を提供したいという強い想いがあり、メニューはコースのみ。

【 Restaurant Spoon 】

福岡県久留米市田主丸町益生田261−27 tel 0943-72-0090

12:00~15:00(L.O.14:30) 17:00~21:00(L.O.20:30) 定休日 不定休

 

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津江雅人 つえ まさと

日吉町 酉雅 店主

イタリア料理店で修行した後、炭火焼きスタイルのイタリア料理店を志すも、焼鳥店で炭焼きを学ぶうちに焼鳥の奥深さに魅了される。2015年5月に久留米やきとりとは一線を引く、福岡県産の地鶏『はかた地どり』を使った本格焼鳥店 日吉町酉雅をオープンする。現在、希少部位を求めて食通も足繁く通う人気店となっている。

福岡県久留米市日吉町2-3 飛永被服ビル1F tel 0942-36-4088

17:00~24:00(L.O.23:00) 定休日 日曜

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